距離は一メートル。しなやかな白い指で。すっと、ボクの鼻の天辺を指す。
大きく息を吸い込みその声帯から、空気砲のように強く放たれた言葉。

「お前が……欲しい!!」
 
その数秒後に、宙で太陽光と風を受け、きらめきなびく緑の髪。
  あ、ごめん。やっぱり条件反射が出ちゃった。

先程の光源がオレンジに染まる頃、やっとサタンと合流できた。2つ位街を越えて、途中の原っぱでお昼寝して……あ、これは内緒。
「すまん、アルル。魔が射したのだ。ワタシが言うとどう反応するか知りたかったのだ。」

遠目でボクを見つけたサタンは駆け寄って、一番に謝って、その後こんなことを言ったんだ。
「そんなこと知らなくていいじゃないか。ボクはてっきりサタンまで変態になったんじゃないかと心配しちゃったよ。」
「なっ、わ、ワタシは変態ではないぞ。断じて!」
 精一杯念を押されるとそれこそ心配になっちゃうんだけどな。それよりもさ。
「もういいから、早くお家に帰ろう。」
 サタンの手を引っ張って、帰り道を急かす。だってもうお腹が空きすぎて、ボクまでカーくんみたいに鳴いちゃいそうだから。 「ぐー、ぐぐー!」
「おおぅ!そうか、カーバンクルちゃんまでそう言うのなら仕方ない。早く帰ろう今すぐ帰ろう!」
 意気込んだサタンの足元に、魔方陣が浮かび上がる。ボクの肩を抱き寄せて唇が動いて、光の幕が産まれる。もしやこれは!
「ちょっとまって!」
 ボクは思わずサタンの胸を突いていた。まるで迫られたキスを跳ね返すような、そんな感じ。怪訝そうな顔で見下ろしてくる。
「せっかく魔法使おうとしてくれたのにごめんね。確かにお腹は空いてるんだけど、ここから家までそう遠くないし、一緒に歩いていきたいなって思ったんだ。」
さっきまで肩に触れていた手を、もう一度手と手で取る。触れた所から、暖かさがじんわりと広がって、心まであったかくなる。人の体ってこんなにあったかいんだよ。温度の違う熱が溶け合うのは意識も一緒。おんなじ気持ちになって、優しさに包まれる。腕に頬擦りなんてしたら、猫耳生やして甘えちゃいそうだよ。サタンもきっと、こんな気持ち感じてくれるよね?
「そうか……分かった。」
 それだけ言って、ボクの頭が撫ぜられた。ボクを見下ろす赤い瞳が、深い深い慈愛に包まれているのが、なんとなく分かる。絡めた五本指に力が入って、一緒に歩き出した。
「ぐぅ〜」
「ははっ。カーくんは待ちきれないって言ってるね。」
 待ちくたびれてるカーくんがボクの肩に……あれ?いない?
「カーバンクルちゃんはあそこだぞ。」
 指を差さなくても声で分かる。曲がりくねった道の先に、カーくんの小さい後姿が見えた。
「今の音はカーバンクルちゃんではなくある」
「うわあ、や、やっぱり急ごう。カーくん待ちきれなくて先に行っちゃってるし。ほ、ほらサタン、急いで!」
 もう一度サタンの手を引っ張って、二人三脚のリードを勤めるボク。さっきの音がカーくんの声じゃなくて……サタンに聞かれるなんて、もう恥ずかしいよ!
 隣でサタンが笑ってる。でもしっかり走ってくれてる。繋いだ手のひらがどんどん熱くなる。どんどん早く、熱く、強く、楽しく……




 こんな経験今までしたことなかったよ。凄く楽しいんだ。ルルーやウィッチと一緒にいる時とは違う、この感じ。
 サタンだけがくれる、特別なもの。

 これからも、ずっと一緒にいてね。





 了。


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あとがき(だと思われる)
 此方の御仁向けの表現を少なからず含んでいるつもりです。 
ある意味閉鎖的なサタアルですが。
 可愛いアルルは皆に愛されるはず!
 だからあえてサタンはいじりませんでした。極めていつも通り?あれ、いつもあんな感じでしたっけ?(ぇ
 ほのぼの大好きです。ほのぼの。いつかこんな魔導世界が実現しないかなあと思います。

 お粗末さまでした。
麻科 逢


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